あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「そんなことしません。そして、フランスに行っても頑張ります」


「当たり前のことを言うな。で、フランス語は少しは上達したのか?」


「フランス語は本当に初心者も初心者で会話なんかまだ出来ないです。不安ですよ。そういう面では」


「仕事と割り切れ。でも、俺は坂上ならフランスでもやっていけると思う。言葉の壁も生活習慣の違いもあるとは思うが、研究をするのに場所は関係ないだろ」


 確かに私は研究をしにフランスに行く。中垣先輩のいう通りなんだけど生活もあるからそんなに簡単に割り切れない。先輩のように自分の研究に自信があるからだろうけど…私は普通の研究員で先輩のように並外れた才能を持ち合わせているわけでもない。


「でも、身体には気をつけろよ。生水は飲むな」


「はい」


 先輩の優しさが言葉に乗せて伝わってきた。先輩は先輩なりに私のことを心配しているのだと思った。そんな優しさに私は頑張ることで報いないといけない。


「そろそろ戻るか?」


「はい」


 研究室に戻った私を待っていたのは仕事の山。データ整理をしながらいつもと同じように席に座り、パソコンに向かう。少しの感傷もありながらも…自分の仕事をする。それが私のこの研究室での最後の時間の過ごし方だった。


 終わった時間はいつも通り定時をかなり過ぎていた。


「そろそろ帰ります」


「ああ。俺はもう少しする」


「お先に失礼します」

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