あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 おススメと言われるサンドイッチの店はテイクアウト専門で、店頭にはたくさんの人が並ぶ列が出来ている。そんな列に並ぶとキャルさんはフッと息を吐いた。キャルさんの仕事ぶりを見る余裕はなかったけど、少し疲れた横顔を見ていると、かなり頑張って仕事をしたようにも見える。綺麗な横顔に私は視線を囚われていた。

 
 キャルさんの送ってくれた研究ファイルの作成者の中にはキャルさんの名前が多数あり、このフランス研究所でのキャルさんの地位と実力はファイルが物語っている。でも、まだ自分の知識で読み取ることが出来ずにいることが悔しいとも思った。


 言葉の壁は最初から折込済。でも、もう少し自分の知識でどうにかなるのではないかと思っていた甘さは簡単に払拭させる。この交換留学の暁に与えられるのは主任研究員という肩書。そんなに甘いものではない。


「何そんなに怖い顔をしているの?」

「いえ。さっきのファイルのことを考えていて」


「休み時間まで仕事?そこまでは誰も求めてないわよ。美羽に求められるのは今はフランスの研究所に慣れること。日常会話くらいはフランス語で出来るようになること。研究はその後になる。美羽の代わりに日本に行った子も今、美羽と同じような気持ちだと思うわ。
 これは交換留学。仕事の為でもあるけど、まずは慣れることだけを頑張ってみたら、焦っても仕方ないと思うのよ」


 そんな話をしていると、目の前に私とキャルさんの頼んだサンドイッチとコーヒーの入ったカップが出されたのだった。


「研究所ではなく公園で食べてから帰りましょ」
< 325 / 498 >

この作品をシェア

pagetop