あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 自分の部屋に入ると、一番にするのがパソコンの電源を入れることだった。小林さんとのメールのやり取りは私の楽しみで、元気の活力でもあった。私はキャルさんや折戸さんがいて、恵まれていると思う。でも、それ以上に私が寂しくないようにと、時間を見つけては届くメールをとっても楽しみにしていた。


 会えない時間は積み重なっていて、私の中で寂しさもある。


 ワインの熱を冷ますかのように私は水の入ったペットボトルに口を付けながらを静かに窓の外を眺めた。既に星が綺麗に瞬く空に小林さんの思いを馳せる。パソコンの電源が入り、立ち上がるまでの少しの時間。私はここで星を見ながら時間を過ごしていた。淋しくなったり、研究で上手くいかない時に私はこの窓からの景色にどのくらい気持ちを和らげてもらったのだろうかと思う。


「もう、一年かぁ。アッと言う間のようなんだけど」

 
 私はキャルに連れられて初めてフランス研究所に連れて行かれた日のことを思い出していた。あまりの緊張に何度も深呼吸する私にキャルはとても優しかった。


『どうにかなるものよ。美羽、一人じゃないでしょ』


 頑張れとかそんな決まりきった言葉ではなくて、『どうにかなる』という日本語独特の響きが私を安心させ、私が一人じゃないと言ってくれる。


『どうにかならなかったら?』

『私がいるじゃない。その時に考えればいいじゃない』


 立ち上がったパソコンのメールの中には小林さんからのメールが届いていた。自然に私は顔が緩むのを止めることは出来なかった。





< 329 / 498 >

この作品をシェア

pagetop