あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「キャルも来たかったけど、会ったら泣くというので今日は研究所で仕事しているとのことでした」


「キャルは来ないで正解。日本に帰国が決まってから、一度二人で飲んだことがある。その時も結構泣かれた。店の人は俺がキャルに酷いことをして泣かしていると思ったのか、睨まれるし散々だったよ。あんなに強気なのに、泣き上戸な部分があるのには驚いた」


「キャルは優しいから」


「そうだね。でも、キャルも美羽ちゃんがフランスに来るまではこんなにまでは仲良くなかった。だから、美羽ちゃんのお蔭で俺は大事な友人を得ることが出来たんだよ」


「…」


 搭乗を促す放送が雑踏の中に響く。もう、折戸さんの搭乗時間になっていた。


 私がフランスに来た時は聞き取れなかったフランス語も今では専門用語でさえも話すことも出来るようになっている。


 あんなに日本で勉強したのに、あんなのは本場のフランスで生活する方が一気に上達すると思うのを実感していた。聞き取りたくない言葉を聞き取ってしまう。


「時間だね。もう搭乗しないといけない」


「折戸さんのおかげでスムーズにフランスの生活に慣れることが出来ました。とっても感謝しています」



 私がそういうと、折戸さんはクスクス笑った。そして、今まで以上にホッとした綺麗な微笑みを浮かべた。そして、遠く私の後ろに向かって声を掛けた。視線は私の頭の上を通り過ぎている。


 声も私の上を通り過ぎている。



「俺は美羽ちゃんに甘いよな。…なあ、蒼空。」

「え?」


 私が振り向くとそこにはボストンバッグを肩に担ぎ、ニッコリと笑う小林さんの姿があった。一年ぶりに見る小林さんの姿に私はただ驚き、言葉を失ってしまっていた。
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