あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「わかりました。私の部屋の近くにプチホテルがありますので、そちらにしますか?泊まったことはないけど、見た目は綺麗です。日本からの視察は少ないですが、ヨーロッパ各地の支社や研究所からは頻繁に視察があるので、その場合に使われているものです」


 私の頭に思い浮かべたプチホテルは豪華ではないけど、生活するには十分すぎるほどの綺麗さを持っていた。今回のように視察でも使われるから、部屋の中は知らないけど、で日本人の観光客もよく利用していることから見ると間違いないと思う。


「美羽ちゃんの部屋に近いならそれでいいよ。俺は寝れればどこでもいいし。それに一応視察という仕事で来ているだけだから、どこに泊まっても構わない。じゃ、美羽ちゃん。案内してくれる?」


「はい。私の部屋からすぐなのでガイドも出来ると思います」


「それは楽しみ」


「フランスには世界的に有名な歴史的建造物もあるので、スケジューリングしてから効率よく回れればいいですよね。小林さんの体調もあるとは思いますが、精一杯、案内をさせて貰います。さ、行きましょう」


 一緒に並んで歩きながら、私は緊張していた。さっきは嬉しくて抱きついたのが嘘のように私は小林さんの方が見れない。自分のパンプスの先ばかりを見て歩いてしまう。石畳に躓きそうだった。


「美羽ちゃん。こっち向いて」


 私は小林さんの顔が見れない。また抱きついてしまいそうだから…。会いたかった思いが溢れそうだったから。


「はい。でも、もうすぐ、メトロの駅に着きます。多分、この時間ならあまり待たずに支社に行けると思います。」


「好きだよ」


「…え?」


 いきなりの言葉に驚いて振り向くと、そこには子供のように悪戯っぽく笑う笑顔があった。その形のいい唇からは優しく掠れた声が私だけに響いていた。
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