あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「明日の朝、起きたら一緒にご飯食べて指輪買いに行こう」


 昨日の夜の言葉は嘘とは思わないけど、現実味もなかったのも本当だった。一年前に付き合いだしてすぐにフランスの研究所に来たから、もしかしたら婚約自体が無くなっても可笑しくない状況だと自分でも分かっていた。一緒に指輪ということの意味は私のも分かる。


「本気だったんですね」


「俺は嘘は言わないよ。パリに居るからには日本では買えないような素敵な店もたくさんあるだろうからイイのが買えると思う。一緒に選べるのが嬉しいな」


 そうは小林さんは言うけど、日本に帰国出来るまではまだ一年の月日が残っている。交換留学とはいうけど、それなりに自分の仕事に責任を持っているから、時期が来たらすぐに帰国というのは出来るのだろうか?


「勿体なくないですか?」


 そう考えると今、買ったといても万が一結婚出来なかったら、勿体ないのではないかとさえ思ってしまう。もしも、小林さんに私以外の好きな人が出来る可能性はゼロではない。小林さんなら、きっといくらでも本気で思ってくれる人が出てくるだろう。


「美羽ちゃんの気持ちは変わる?俺以外の男を好きになる?」


 そんなことはない。私のこの気持ちに偽りはない。


「そんなことないです」


「それは俺も一緒だよ。美羽ちゃん以外好きにならない。だから、指輪は無駄にならない」


「いいのあるといいですね」


「そうだね」


 歩きつかれていた私はそのまま小林さんの腕の中で目を閉じる。狭いベッドだけど、小林さんに甘えるのにはちょうどいい。ベッドが狭いからと言い訳を心の中で何度もしながら眠ってしまった。


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