あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 その日は朝から綺麗な空が広がっていた。窓を開けると爽やかな風が部屋の中に入ってくる。私はスルリと小林さんの腕を抜けると朝食の準備を始めた。そんなに凝ったものは出来ないけど、すぐにお腹が空いてしまう小林さんに朝食は欠かせない。


 今日は小林さんがフランスでの海外研修を行う日で、そのガイドをするのが私の仕事だった。研修の最後にはレポートの提出もあるのだから、私も気が抜けない。高見主任と折戸さんの陰謀で始まった今回の小林さんの研修だけど、レポートなどは普通通りに提出しないといけない。


「美羽ちゃんとパリでデートだね」


「いえ、小林さんの海外研修のガイドです。仕事の一環ですし、レポートもありますし」


「でも、手は繋ぐよ。いいよね」

「はい。そのくらいなら」


「肩は抱いてもいい?」


「…ええ。あんまり人通りが多くなければ」


「じゃあ、キスは…?」


「恥ずかしいのでダメ」


「わかった。手を繋いで歩いて、人が少なくなったら肩を抱いて、人が居なくなったらキスする。それならいい?」


 小林さんに私の気持ちは通じてなかったようだ。デートではなくてきちんと仕事の一環としての線引きは難しい。


「お手柔らかにお願いします」


「こちらこそお願いします。小林さんのレポートが有意義になるように頑張ります」
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