あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 朝起きると、私の横には無邪気な小林さんが眠っている。昨日も仕事が遅くて、お互いに日にちが変わるギリギリに帰宅して、一緒に少しだけ穏やかな時間を過ごしたような気がする。でも、気付いたら私はベッドの中だった。ワインでも飲もうかと小林さんがキッチンに行き、グラスとワインのボトルを取りに行っている間に私はソファに座ったのは覚えている。


 でも、その後は全く記憶がない。


 身体を包み混むようなソファは真夜中の私にとっては甘い麻薬のように眠りに誘う。昨日は結婚の時のお祝いに貰ったワインを飲もうと朝から約束していたのに、抜栓はまだ先になりそうな状況だった。


 フランスから帰国した私には主任研究員の席が用意されてあり、中垣先輩の研究を引継ぎレポートや報告表を纏めるという仕事が待っていた。引継ぎはある程度していたにも関わらず、思ったよりも進んでいた研究を最初のデータから確認をしたりしてたので時間が掛かってしまった。


 中垣先輩のいう通りに書けばいいのかもしれないけど、これでも研究員の端くれの私としては自分の納得のいくものを残したいと思ってしまう。自分の融通の利かない性格が首を絞める結果となっていた。


 時計を見るとまだ十分は起きるまでに時間があった。


「甘えてもいいよね」


 そんなことを自分に言い訳して、小林さんの腕の中に潜り込む。小林さんの腕の中は暖かくて落ち着く。そして、幸せだと思った。小林さんのシャツは私の服と同じ香りがする。同じ洗剤や柔軟剤を使っているのだから当たり前なんだけど、『結婚』を意識した。
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