あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「断ろうと思ってます。今の仕事にも満足してますし、それに…。」


 私がチラッと小林さんの方を見つめると手に持っているマグカップをテーブルの上に置き、小林さんはフワッと私の身体を抱き寄せた。私は小林さんの胸の中で少し早い鼓動を聞きながらそっと言葉を零した。


「蒼空さんの傍に居たいです」


 自分の気持ちを言葉にすることがこんなにも勇気がいることだと思った。でも、小林さんは私のことを大事に思ってくれるのが分かるから、私も素直になれる。フランス留学の件も私の判断は間違ってなかったと思う。


 いくら仕事が出来ても…。どんなに研究員として華やかな未来が待っていたとしても、私にはこの恋を手放すことは出来ないと思った。仕事と恋となら私は恋を選ぶ。私は小林さんから離れるなんて考えられない。仕事しか興味のなかった私には驚くほどの変化だと思うけど、これが今の私なのだから仕方ない。


 今のままの私で小林さんの傍に居たいし、出来ることなら小林さんの傍でこれからの時間を過ごしていきたい。



「俺の傍にずっといて」



 そんな小林さんの心の欠片を掠らせたような言葉に心を熱くしながらも頷くと、小林さんはキュッと私の身体を抱き寄せた。抱きしめられながら、小林さんの時間の許す限りの時間を過ごす。お互いに忙しい私と小林さんにはこの少しの時間がとっても大事だった。


 しばらく経って、小林さんは小さな溜め息を零す。その溜め息が私の肩に掛かるのを感じた。

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