あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 一緒にこんな風に楽しくて幸せな朝を過ごせればいいと思わずにはいられない。もしかしたら今までの人生の中で初めて『結婚』ということを意識した朝だった。先のことは分からないけど、私の気持ちが小林さんから離れることはないから、小林さんの気持ちが変わらないうちはきっとこの恋は続いていく。


 そんな恋の先に『結婚』というものがあるのか分からないけど、今はただ小林さんの傍に居たいということだけだった。


「私も用意しないと」


 そんな言葉を零しながらシャワーを浴びて、化粧をして、普段と変わらない服を着る。そんないつもと同じ時間を過ごしているのにいつもよりも気持ちが高揚している私がいる。ふと、気を抜くと小林さんのことを考えてしまう。少し前にここにいた小林さんのことを思いだし、幸せな時間を一緒に過ごしたことを思いだし……。


 私は次第に現実に戻っていく。


 準備を終わらせてマンションの部屋を出たのは、いつもと同じ時間だった。いつもと同じ電車に乗って、いつもと同じ時間に研究所の玄関を潜る。IDカードを翳して、自分の研究室のある棟に入るとさっきまでの気持ちがフッと消えて行く。恋愛から仕事モードに移行するのを感じる。


 こんな風に研究所に入ると一気に仕事モードになるのはいつものことだけど、今日もだと思うと少しだけ安心する。小林さんに甘い時間を過ごしても私は私で居ることが出来る。それに恋で仕事が疎かになるようならきっと小林さんは嫌がるだろうと思った。


 私が好きになった人はそんな人だと思う。

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