君と出逢えたこと
「電話でいいからな。会ったら殴るやろうから」



冷静な顔で主人は言った。



お願いやから出やんといて…



どこかでそう思いながら電話をかけた。



無情にも呼び出し音が鳴ってすぐ電話は繋がった。



「もっし!ゆき!どしたん?」



凄く嬉しそうな声。

何て言おうか…



「もしもし…トシ…あのね…」

「ん?元気ないけど何かあったか?行こうか?」


いつもの優しい声。

涙が溢れてくる。


「あのね…旦那に…旦那にね…」



なかなか言い出せなかった。



「……バレたんか?そうなんやな?」

トシ…



しっかりした口調でそうトシは言った。



「うん…旦那がトシと話したいって…」

覚悟を決めて話した。



これでトシにも逃げられたら?



そんな不安が頭を過る。



「わかった…今から行くから!」



トシは逃げなかった。



「電話でいいって…会ったら殴るかもやからって…」

「俺は殴られても構わんよ。それだけのことをしたんやから。それよりゆきは大丈夫なんか?」



私を気遣ってくれるトシ。



「うん…大丈夫。電話で話してくれる?」

「わかった。代わって」



私は黙って携帯を旦那に渡した。
< 21 / 28 >

この作品をシェア

pagetop