俺様御曹司と蜜恋契約
「忘れさせてあげようか?」
*
森堂商店街にある喫茶店『レインカバー』にはゆったりとしたジャズが流れていた。
「バカじゃないの!?どうしてそんなことしたのよ。ああ、もうっ!花ってば本当にバカ。大バカ!」
「そんなにバカバカ言わなくても」
思わずシュンと下を向いてしまう。しかし、目の前に座る幼馴染はそんな私を見てもさらに言葉を続ける。
「花ってば小さいときからそういうところあるよね。困っている人を放っておけないっていうの?ほら、夏休み中のウサギの世話当番だってクラス全員分のをたった一人で引き受けたり、誰もやりたくなかった体育祭委員にスポーツ苦手なくせに立候補したり、仲間外れにされてる子と仲良くなろうして今度は自分が仲間外れにされたり、テスト期間前に授業用のノートをクラスの子に貸して自分がテスト勉できなくなったり、まだまだあるよ」
「そんなことよく覚えてるね、優子」
「当たり前でしょ。私は花の幼馴染なんだからっ」
大きな声が喫茶店に響き渡る。
「まぁまぁ優子ちゃん落ち着いて。花ちゃんとケンカでもしてるのかい?」
銀色の丸いトレーを片手に現れたのは喫茶店のマスターのジョージさんだ。白くて長いお髭が自慢の60代のおじいちゃん。ちなみに本名は譲ノ信(じょうのしん)さんで日本生まれの日本育ちだ。
「ほら2人とも。コーヒーでも飲んで」
コーヒーの入った白いマグカップがテーブルの上に置かれる。挽きたてのそれはやっぱり香りがいい。
森堂商店街にある喫茶店『レインカバー』はマスターのジョージさんが淹れるコーヒーが美味しいと評判だ。その他にも軽食としてサンドイッチやナポリタンなどがありシンプルな味付けなのにとても美味しい。
ジョージさん自慢のコーヒーに口に付けその味を楽しんでいると、優子が深いため息をついた。
「花ってば本当にどうするのよ」
「どうって?」
「社長さんに遊ばれてるんだよ?」
心配そうな表情を浮かべる優子に、私は黙って俯いた。