俺様御曹司と蜜恋契約
「もうっ！花ってば本当に呆れる」

目の前の優子が大きくため息をこぼす。

「知らなかったよ。葉山グループが計画していたはずの再開発が突然なくなったからおかしいとは思っていたけど…。まさか花と葉山社長との間にそんな取引があったなんて」

「優子は商店街の再開発のことは前から知っていたの？」

「当たり前でしょ」

優子が大きく頷いたのを見て、私はマグカップを握る両手に力を込めた。

「私は最近まで知らなかった。まさか森堂商店街に再開発計画があったなんて」

私がそのことを知ったのは春の頃だった。そのときに母親から聞いた話によると再開発計画は今年の初めからもうすでに浮上していたらしく商店街のみんなは頭を悩ませていたらしい。

そのことを同じ商店街に住んでいるのに私はまったく気が付くことができなかった。あのとき様子のおかしい両親に自分から聞かなかったらきっと私は今でも森堂商店街に再開発計画があることを知らなかったかもしれない。


「花の親は優しいから。きっと花に余計な心配かけさせたくなかったんだよ」

「でも私はもっと早くに教えてもらいたかった。優子は祐（たすく）兄ちゃんから聞いたの？」

「うん。まぁね」

祐兄ちゃんとは優子の５つ年上のお兄さんのことで、私も小さいときはよく遊んでもらった。現在は結婚して奥さんと２人で『桐原生花店』を継いでいる。

優子の両親はすでにどちらも他界している。父親は優子が小学生のときに病気で亡くなってしまい、それからは母親がたった１人で花屋を切り盛りしながら優子と祐兄ちゃんを育ててきた。そのお母さんも２年ほど前に病気で亡くなっている。

「それに私はお店を継がないといけないから商店街がなくなったら困るの」

優子がぽつりとこぼした言葉に私は思わず首を傾げる。

「あれ？でも優子の家のお花屋さんなら祐兄ちゃんと奥さんが後を継いだんでしょ？」

「うん。そうなんだけどそっちのお店じゃなくて……。って、それよりも今は花のこと！」

優子の語気が強くなる。

「そりゃね、商店街の再開発がなくなったのは嬉しいよ。でもそれだと花が犠牲になったみたいで喜べないよ」

犠牲かぁ…。
そんな風に思ったことはなったんだけど。
< 106 / 197 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop