俺様御曹司と蜜恋契約
「困っている人を放っておけなくて自ら首を突っ込んで結局自分ばかりが損をしている花の性格が私には分からなかった」

突然の優子の告白に私は返す言葉も見つからずに戸惑ってしまう。

「そうやって自分よりも人の幸せを優先するところが嫌い。自分自身が我慢して身を引けばうまくまとまるっていう自己犠牲なところ大嫌い」

「優子…」

「でも何が1番嫌いかっていうと、そんな花の性格を知っていたのにそれに付け込んだあのときの最低な自分が大嫌い。あのとき花だって本当は……」

そこまで言いかけて優子は口を閉じた。それから飲みかけのコーヒーを口の中へ流し込み、イスから立ち上がる。

「――ごめん。今日は帰るね」

「えっ?でも優子たしか私に話があるんでしょ?」

すっかり話がそれてしまったけれど、そもそも今日は優子に話があるからと誘われていた。まだその話を聞いていないのに。

「ごめん花。今日はそんな気分じゃなくなった。また連絡する」

そう言って席を立つ優子が私に背中を向けた。

「ちょっと待ってよ優子」

私の制止に振り返ることもなく優子は店を飛び出していく。

扉に飾ってあるベルがチリンと寂しそうに鳴った。

「おやおや花ちゃんと優子ちゃんがケンカなて珍しいね」

マスターのジョージさんがカウンターでコーヒーを挽きながら心配そうに顔を歪めている。

「どうしようジョージさん。…優子のこと怒らせちゃったかも」

私はマグカップに口をつけた。砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーの苦みが口いっぱいに広がる。けれどそれは少し冷めてしまっていた。


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