俺様御曹司と蜜恋契約
「葉山光臣社長ですよね」
*
週が明けた月曜日。
高層ビルが立ち並ぶオフィス街にある葉山グループの本社ビル。その正面入り口から中へと入り受付をすませると思わずエントランス内の様子を見まわしてしまった。
「すごい……」
初めて来た親会社は、子会社であるうちの建物よりもはるかに大きくて圧倒されてしまう。会社というよりはまるでどこかのリゾートホテルのよう。
白を基調としたエントランスは吹き抜けになっていて明るい日差しがたっぷりと入り込んでいる。ところどころに置かれた観葉植物が建物全体に爽やかな印象を与えていた。
「あ、ごめんなさい」
きょろきょろしながら歩いていたせいで誰かにぶつかってしまった。
「こちらこそごめん。大丈夫?」
びしっとしたスーツに身を包んだ男性社員が私を心配そうにのぞき込む。首から下げている社員証には所属部署と名前が入っていた。
「すみません、大丈夫です」
「それならよかった」
気を付けてね、と笑顔でそう言うと彼はまた歩いて行ってしまった。
私の前方不注意でぶつかってしまったのに優しい人だなぁ…。
また誰かにぶつかってはいけないと今度はしっかりと前を見て歩く。けれどエントランスで行き交う社員さんたちのことが気になってしまいついつい目がいってしまう。
さっきの男性もそうだったけれどどの社員もみなスタイルが良いのだ。
スーツを着た男性社員は足が長く背が高いし顔が小さい。オフィスファッションに身を包んだ女性社員もみな美人揃いで化粧も髪型もきっちりときまっていた。
さすが大企業の本社ビルだなぁ……。
ふと自分の格好を見れば会社から支給された紺色の制服の上に春物のベージュコートを羽織っただけのパッとしない服装。髪型はストレートな黒髪を後ろで一つに結んだだけだし、化粧もファンデを塗って眉を描いただけの薄化粧。唇には乾燥予防のために塗っている無色無香料のリップクリーム。
女子力ないよね……。
普段はそんなことで落ち込んだりしないんだけど、キラキラとしたエントランス内の様子に思わず自信を失くしてしまう。