俺様御曹司と蜜恋契約
スープの味見をして「うん」と頷く。キャベツも柔らかくなっているし肉だねにもしっかりと火が通っている。完成かな。

「そういえば彼氏にしてあげたことないの?」

ふと後ろに立っていた葉山社長の声が聞こえた。味見用のスプーンを持ったまま振り返る。

「何をですか?」

「彼氏のために料理作ったことないの?」

「えっ……」

その質問に思わず固まってしまう。

彼氏に料理を作るどころかその彼氏すらいたことがないのだけれど。それを葉山社長の前で正直に言うのが恥ずかしい。

「あ、ありませんね」

そう答えた自分の声が上ずっていることに気が付いた。すると葉山社長がニタリと片方の口角を上げて私をまじまじと見つめる。

「あれ?お前もしかして彼氏いたことなかった?」

ギクッと体が反応する。

「ああ、なるほどな。なんとなく男経験なさそうだとは思ってたけどやっぱりそうか。キスのときもガチガチに固まってたし……あ、もしかして俺とがファーストキス?」

「……っ」

その通りですよ。
私はあなたにファーストキスを奪われました。
一度ではなく何度も。

思い出すとふつふつと怒りがこみあげてくる。

「ああ……なんかごめんな」

ごめんな。
そう言いながら葉山社長の顔がニヤついているのは気のせいだろうか。この人、絶対に面白がってる。

そりゃ、女性経験が豊富な葉山社長に比べたら私のような年齢と彼氏がいない歴が一緒の人間は不思議なのかもしれないけど。

それに謝られてもなんだか惨めな気分になるからやめてほしい。今さら私のファーストキスは戻ってこないんだから…。

その話題はもうやめようと気を取り直してお皿を手に取る。そこへ出来上がったばかりのロールキャベツを盛り付けていく。

「もしかしてお前、幼馴染にずっと片思いでもしてんの?」

「……っ」

「観覧車で泣いてたのもそいつのせいだろ?」

葉山社長の言葉に、分かりやすいくらいにピタッと体が止まってしまった。途中まで盛り付けたロールキャベツのお皿を持ったまますっかり固まってしまう。
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