俺様御曹司と蜜恋契約



「――ああ、やめたよ。もうしばらく女と寝てない」

その週の水曜日。
葉山社長のマンションで私は一緒に夕食をとっていた。

海外の出張から戻って来たらしくスマホに連絡が入りいつもみたいにご飯を作りに来いと言われた。2か月近くこんな生活を続けていたから、もうすっかりそれが自分でも当たり前になってしまって何の抵抗もなくなってしまったことがおそろしい。

テーブルにはアジのフライの他に小松菜と油揚げの味噌汁、それから葉山社長が食べたいと言ったポテトサラダの大盛りが並んでいる。

この部屋の立派なアイランドキッチンももうどこに何が置かれているのかが分かるようになっていて、足りないものは付け足したりしている。いったいもう何品の料理をこのキッチンで作ったんだろう。

今日の夕食の席で持田さんから聞いた噂を本人にたずねてみたらそれはどうやら真実だったようで。

「前にも言っただろ?マミのこと抱けなかったって」

そういえば言われたような気がする。葉山社長がうちの会社に来たときに押し倒されながら……。

「あれからそういうこと一切なし。俺にしてはよく耐えてるよ」

葉山社長が箸でアジのフライを掴むと口へ放り込んだ。サクッといい音が聞こえたのでその揚げ具合に満足する。お手製のタルタルソースを乗せて食べるアジのフライはうちの食堂でも人気メニューのうちの1つだ。

「どうして我慢してるんですか?」

別に我慢する必要なんてないはずなのに。

すると葉山社長が小さく息を吐いてから箸をテーブルに置いた。

「お前のせいだよ」

「私?」

「ああ」

それだけ言うと葉山社長が再び箸を手に取り食事を始めた。


私のせいって、どういうこと?
葉山社長に何かしたかな?

考えるけれど何も思い浮かばない……。



< 115 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop