俺様御曹司と蜜恋契約
「そういえばお前の家の食堂の飯食ってみてーな」

そう言って、葉山社長が味噌汁をすする。

その言葉に私はすぐに首を横に振った。

「ダメですよ。だって葉山社長はうちの商店街にとっては敵なんですよ?」

「敵?」

「そうです。商店街を再開発しようとしていた会社の社長なんだから敵ですよね」

「たしかに」

敵かぁ、と呟いて葉山社長が笑っている。

「葉山グループの葉山社長だって分かった瞬間に商店街から追い出されますよ」

「だったら名乗らなければいいだろ?」

「名乗らなくても、そもそも顔でバレますよね?」

葉山グループは商店街の再開発計画について住人たちに説明会を開いている。それに葉山社長が出席していたら顔だってしっかりと見られているはず。

「いや、俺の顔ならたぶん知らないと思うけど。森堂商店街の再開発を担当しているのは副社長の叔父だから。叔父が部下を連れて説明に言っていただけで俺は一度も行ったことがない。だから俺の顔なんて知らないから、葉山ってさえ名乗らなければ大丈夫だろ」

「両親に正体を隠すってことですか?」

「そう」

「それならよけいに連れて行けません」

両親に嘘をつくなんて。そんなことをしてまで葉山社長を家の食堂に連れて行く理由が見つからない。

そのあとも葉山社長は私の家のの食堂に行きたいと何度も言ってきたけれど私は決して首を縦に振らなかった。頑なに拒み続けていると葉山社長もとうとう折れたらしく『ケチだな』といじけたように言って口を閉じた。

だからすっかり安心していたのだけれど……。

このときの私は葉山光臣という人の性格をすっかり忘れていた。



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