俺様御曹司と蜜恋契約



そのあと葉山社長は親子丼をもう一杯お代わりして計3杯も食べた。すっかりお腹もいっぱいになってそろそろ帰ると思ったけれど。

「おやつとかない?」

まだ何か食べたいらしい。

人の家に来てやりたい放題。この人らしいというか…。もう呆れてしまって何も言う気にならない。

「台所に何かあるか見てきます」

台所に向かうと棚の上に置かれている箱が見えた。手を伸ばしてそれを手に取ると、深緑色のその箱はとても見覚えがあるもので。フタを開ければ丸くて白いふわふわとした和菓子が入っていた。

「これ。陽太の家の豆大福だ」

両親が買いに行ったのかな?それか貰ったのかな?商品が余るとよく家におすそ分けをしてくれているからたぶん貰い物だと思う。

「おっ!美味そうじゃん。もーらい」

いつの間に台所に来たのか後ろには葉山社長が立っていて。私の背後から手を伸ばして箱の中の豆大福を一つ掴む。

「あっ!ちょっと」

まだ食べていいなんて一言も言っていないのに葉山社長は豆大福をぱくりと一口で口の中へ頬張った。

「うめぇなコレ。もう一個もーらい」

二個目も一口であっという間に食べてしまう。

「これどこの饅頭?」

「饅頭じゃなくて豆大福です。うちの隣にある『佐々木庵』っていう和菓子屋のです」

私も一つ手に取ると豆大福を口へ入れる。

もちもちとした生地の中に甘いあんこがぎっしりとつまっている。

「美味しい」

変わらない味だった。その懐かしい味を噛みしめるように食べる。

小さい頃、陽太が家に遊びに来るたびにいつも自分の家の佐々木庵の名物・豆大福をおやつに持ってきてくれた。うちには陽太専用の湯呑もあって二人でお茶をすすりながら豆大福を食べたっけ。今思えばなかなか渋い小学生だったかもしれない。

そのときのことを思い出して笑みがこぼれる。

陽太、元気かな……。

すぐ隣に住んでいるのにもう2年も顔を見ていない。

いよいお明日は陽太が佐々木庵を継ぐ日だ。
< 121 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop