俺様御曹司と蜜恋契約

そういえば『話がある』と言われて呼び出されてジョージさんの喫茶店で優子と会った。あのときは森堂商店街の再開発の話だけで終わってしまって優子の話を聞くことができなかったけれど。

もしかして優子が話したかったことって……。

「てっきり優子が俺と結婚することを花に話したと思ってたんだけど」

頭の後ろに手をあてた陽太が困ったように髪の毛をわしゃわしゃとかく。その様子を私は茫然と眺めていた。

陽太と優子が付き合っていることは知っている。だからいつかはこういう日が来るとは思っていたけど。

「そっか。おめでとう陽太」

私はきちんと心からそう言えているかな…。笑顔は作っているけれどきちんと笑えているか分からない。

「言っておくけど、あの日、花に言われたから優子と付き合って結婚するわけじゃないからな。俺が自分で決めたことだから」

「うん。分かってる」

「あの日まで本当に花が好きだったけど。でも今は優子が好きだから」

「うん」

あ、やばい。
もう笑顔が限界だ。

目がじんじんと熱くなる。

鼻をすすって誤魔化して、こぼれそうな涙をひっこめた。


「だから、花も幸せになってくれたら嬉しい」


陽太はそう言うと、葉山社長へ視線を向ける。

「花のことよろしくお願いします」

頭を下げる陽太の姿に私はまた泣きそうになってしまう。

ごめんね、陽太。
その人は私の本当の彼氏じゃないんだよ…。

騙すことはよくないけど、でも本当のことも言えなくて。今だけはその嘘に乗ってしまいたかった。彼氏がいるから…と２年前のあの日、陽太についた嘘を嘘じゃなくすために。

「おう。任せとけ」

本当の彼氏ではないのに葉山社長がそう言ってくれる。すると陽太が安心したように笑った。

「それじゃあ俺はこれで」

陽太がもう一度頭を下げると私たちに背を向ける。しかし店の扉に手をかけるとゆっくりと振り返った。

「花。明日、待ってるから」

約束だぞ、と微笑んでから陽太は店の中へ入っていった。