俺様御曹司と蜜恋契約
そんな思い出の公園のブランコに葉山社長と2人で並んで座っている。

「ありがとございました」

ブランコに腰掛けながらそう呟けば、

「何が?」

地面に足をつけながらゆらゆらとブランコを漕いでいる葉山社長の声がした。

子供用のブランコに長身の葉山社長が座っているのはなんだかとても違和感があって、長い足を折り曲げて窮屈そうなその姿が少しだけおかしい。

「陽太の前で本当の恋人みたいに振舞ってくれたことです」

ブランコの鎖をぎゅっと握りしめながら、私は視線を下に落とした。

「ずっと陽太についていた嘘が、あのときだけ嘘じゃなくなりました」

陽太からの告白を断ったとき、彼氏がいるから付き合えない、と私は陽太に嘘をついた。もちろんそのとき私には彼氏なんていなかったけど、陽太からの告白をきちんと断る理由になると思ったから。

陽太が葉山社長のことを私の彼氏だと思い込んだあのときだけ、2年前のあの嘘が嘘ではなくなったような気がした。

とても自分勝手かもしれないけれど……。

「少しだけスッキリしました」

ふぅと息を吐いて空を見上げる。星のない真っ暗な空にはぽっかりと月だけが浮かんでいた。

あのあとなんだか家に戻りたくなくて森堂公園へと足が向かった。葉山社長も私の後をついてきて、こうして2人でブランコに座っている。

「あいつがお前の好きな幼馴染か」

いつの間に箱のフタを開けたのか葉山社長は豆大福を手に持っていた。それを一口かじるともぐもぐと口を動かしている。

「お前たちの間に何があったんだ。とか聞いてもいい?」

葉山社長が二つめの豆大福を口に頬張った。

私はしばらく黙っていたけれど、今は誰かに話を聞いてほしい気分だった。

ずっと自分の中で隠していた本当の気持ちを知ってほしかった。




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