俺様御曹司と蜜恋契約
「――すみません。長々と話してしまって」

葉山社長に全てを話し終えると私は鼻をすすった。目元に浮かんだ涙を拭こうと白いブラウスの袖でごしごしとこすれば黒いマスカラが少しだけ付いてしまった。

陽太のことを想って泣くのは今日が最後にしよう。今日でもう陽太への想いは消そう。箱に閉まって大事にフタをするんじゃなくて、そのフタを開けて中身を全部出してしまおう。

「いや、教えてって言ったのは俺だし」

葉山社長は首を大きく後ろにそらせると手に持っていた缶コーヒーを飲みほした。それを近くにあるゴミ箱へと向かって大きく投げる。きれいな弧を描いて飛んで行った缶は見事にゴミ箱へとおさまった。

「しかしお前は損な性格してるよな」

ぼそっと葉山社長が呟く。

「幼馴染に好きなやつを譲ったり、商店街のために俺の女になったり、どうしてそこまで他人を優先できるのか俺には分からねーな」

そんなつもりはなかった。優子に幸せになってほしいと思った。商店街を守りたいと思った。ただそれだけのことなのに、損な性格だなんて思ったことはない。

そういえば同じようなことを優子にも言われたっけ。

ジョージさんの喫茶店で会ったときに優子は私のそんな性格が嫌いだったと言っていた。そしてそんな私の性格に付け込んでしまった自分がもっと嫌いだと言っていたけれど、あれはどういう意味だったんだろう…。

本当はあのとき優子は私に陽太との結婚を報告したかったのにそれを優子の口から聞くことができなかった。優子とケンカっぽくなってしまったけれど、今度会ったらしっかりとおめでとうと言おう。

きちんと2人をお祝いできるように陽太への長い恋は今日でしっかり終わらせよう。

だから今だけ泣いてもいいよね……。
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