俺様御曹司と蜜恋契約
スカートのポケットを探るけれどこんなときに限ってハンカチが入っていなかった。仕方ないから目から溢れる涙をブラウスの袖で必死に拭う。マスカラが落ちてどんどん白いブラウスが汚れていく。

目からこぼれる涙が頬をつたって落ちていく。声を出さずにひっそりと、ときどき鼻をすすりながら、私は涙を止めずに泣き続けた。

「ったく」

すると葉山社長が大きなため息をこぼしながらおもむろにブランコから立ち上がった。そして私の前にくると二の腕を強く掴む。

「えっ」

そのままグイッと引っ張られ無理やり立ち上がらされたかと思うと、すぐにふわっと温かなものに体が包まれた。

「葉山社長?」

観覧車のときと同じように私の体は葉山社長に抱きしめられていた。その広い背中に自然と自分の手が回りしがみついてしまう。と、私を抱きしめる葉山社長の腕にも力がこもった。

「だから、俺の前で泣くなって言っただろ」

少し苛立ちすら感じる強い口調だった。

その言葉に顔を上げて葉山社長の顔を覗き込めばぱちりと視線がぶつかった。葉山社長の長い指が私の目にそっと触れるとそこにたまっている涙をそっとぬぐってくれる。

そういえば何度か言われているこの言葉。

『私の涙には弱い』
『だから泣くな』

それってどういう意味なんだろう…。

「葉山社長……うわっ」

名前を呼んだときだった。
目元に触れていた葉山社長の手が突然後頭部に移動すると、そのまま顔を思い切り胸におしつけられた。

「お前が泣いてると、あのときみたいにまた俺がお前を泣かせたと思っちまうんだ」

あのとき…?

「だから俺はお前の涙には弱い。俺の前で泣いてほしくない。でももしも泣くならその涙を止めてあげたい」

葉山社長は何を言っているのだろう…?
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