俺様御曹司と蜜恋契約
その店員さんがちらっと葉山社長に視線を向けたのが分かった。

そういえば注文を取りに来たときも、葉山社長が頼んだアイスコーヒーと私が頼んだアイスティーを持ってきてくれたときも、この女性店員さんは葉山社長のことをちらちらと見ていたっけ。

「君、待って」

私たちの席を離れようと背を向けた女性店員さんをなぜか葉山社長が呼び止める。

「君が胸ポケットにつけているペンをちょっと貸して」

「え?あ、はい」

葉山社長は女性店員さんからペンを借りると、紙ナフキンの上にすらすらと何かの番号を書いていく。と、それをペンと一緒に店員さんに渡した。

「これ俺の連絡先。よかったら電話して」

そう言って、葉山社長がきれいなウインクをきめる。

「ありがとうございます。でも、えっと…いいんですか?」

それを受け取った店員さんがちらっと私に視線を向けたのが分かった。すると葉山社長が手をひらひらとさせながら言う。

「ああ、大丈夫大丈夫。こいつは彼女とかじゃないから。田舎から出てきた遠い親戚。都会が珍しいらしくて案内してやってるところ」

………ん?
このセリフ前にもどこかで聞いたことがあるような。

たしか横浜で置き去りにされたときの……。

「そうなんですね!……じゃあ」

店員さんは葉山社長から受け取った連絡先の書き込まれた紙ナフキンを大切そうに制服のポケットにしまった。それから嬉しそうに頭を下げて戻っていく。

その後姿に向かって手を降る葉山社長を私は思わず睨みつけた。

「なに?」

私のそんな視線に気が付いた葉山社長は店員さんに向けていた笑顔をさっと消した。

「何でもありませんっ」

ぷいと顔を横に向けながら私はテーブルの上に置かれた細長いスプーンを手に取る。
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