俺様御曹司と蜜恋契約
車の後部座席に回った男性がドアを開けると、ほぼ直角に腰を折り頭を下げる。


「お疲れさまです、社長」


きびきびとした彼の大きな声はエントランスにいる私にもしっかりと届いた。

すると、スーツの前ボタンを留めながら一人の男性がゆっくりと車から降りてくる。

体のラインにぴったりと合ったネイビーのスーツ。周りよりも頭ひとつ飛び出すほどの長身。長い手足。さらさらの黒髪。そして、堂々とした立ち居振る舞い。


葉山グループ代表取締役社長、葉山光臣。


写真では何度か見たことがあったけれど実物を見るのは今日が初めてだった。

秘書らしき年配の男性と数名の部下を後ろに従えた葉山社長が正面入口からエントランスへ入ってくると、空気がピリッと引き締まったような気がした。

すれ違う男性社員たちはみな一様に立ち止まり会釈をし、遠くから眺めている受付の女性たちはうっとりとした眼差しを向けている。

そんな中で私は来客者用のイスに座りながら葉山社長御一行を眺めていた。するとふと葉山社長の視線が私に向けられたような気がした。が、すぐに反らされてしまう。


一瞬目が合ったような気がしたけど、気のせいかな?


葉山社長御一行が私の座っている来客者用のソファの前を通り過ぎていこうとしたとき、秘書らしき男性が手帳を広げて葉山社長に声をかけた。


「――社長。森堂商店街の件なのですが…」


その言葉に思わずピクンと体が跳ねて反応する。

森堂商店街の件って葉山グループが計画している再開発のことかもしれない…。

私はじっと二人の会話に耳をすませた。

「本日の定例会議で、先日行った再開発についての商店街住民たちへ向けた説明会の報告が副社長からあるそうです」

「何時からだっけ?」

「役員はもう全員集まっておりますので社長が到着次第すぐに始められます」

「りょーかい。あのこと言うけどいいよな?」

「最終的な決定は社長にありますので」

「そんじゃ、今日こそはっきりと言ってやる」

葉山社長たちはエントランスを進むと奥にあるエレベーターの前で立ち止まった。

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