俺様御曹司と蜜恋契約
その姿をじっと見つめながら、私の心臓はさっきからドキドキとうるさい。

さっきの会話によるとこの後の会議で森堂商店街の再開発についての話し合いがあるみたいだ。その最終決定権は私の目の前を通り過ぎて行った葉山社長の手に握られている。


いったい何が決まるんだろう……。


そわそわと落ち着かない気分を鎮めるために一度大きく息を吸って吐き出した。すると口の中で舐めていた飴玉のいちご味が広がっていく。

葉山社長はまだエレベーターが降りてくるのを待っている。

私との距離は数メートル

手を伸ばせば届くし声を掛ければ振り向いてもらえる距離に私たちの商店街を再開発で壊そうとしている敵のボスがいる。


金曜日の夜、もうお店を続けられないかもしれない、と言った両親の寂しそうな顔を思い出す。

実家の和菓子屋を継ぎたいという夢を語ってくれた幼馴染の顔を思い出す。

いつも私に優しくしてくれた商店街みんなの顔を思い出す。


大好きな森堂商店街。

再開発で壊されてしまうなんて絶対にイヤだ。

これからもずっと森堂商店街をあの場所に残したい。


そう思ったらいてもたってもいられなくなった。


金曜日の夜からずっと考えていた。
大好きな森堂商店街のために私は何ができるんだろうって……。



しばらくしてエレベーターが降りてくる。

ゆっくりと扉が開き葉山社長が乗り込もうとした、そのとき―――。


「葉山社長っ」


エントランスに響いたのは私の声だった。
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