俺様御曹司と蜜恋契約
葉山社長に連れ出されて森堂商店街の中を歩き始める。一緒にいるところをなるべく誰にも見られませんように、と心の中で願いながら。
「思ってたより繁盛してるんだな」
首元のネクタイをゆるめながら葉山社長がぼそっと呟く。
ちなみに今日は休日にも関わらず葉山社長の服装はスーツ姿だ。午前中に大事な会議があったらしくそれが終わってから母親の回復祝いのお菓子を買って家に来たらしい。その気持ちは嬉しいけれど……。
「へぇ、喫茶店もあるのか」
葉山社長は物珍しそうにきょろきょろと首を動かしながら商店街の様子を観察している。その一歩後ろをとぼとぼと歩いていると、なんとも香ばしい香りが漂ってきた。
「あら、花ちゃんじゃないの」
そこはちょうど田中団子屋の前だった。
「お遣いは終わったの?」
田中のおばあちゃんにそうたずねられて「はい」と返事をした。
お店の食材の調達していたときも田中団子屋の前を通ったので、店先で団子を焼いている田中のおばあちゃんとはさっきも会ったばかりだった。
「あらまぁ。そっちの男前さんはどなた?」
田中のおばあちゃんの視線が葉山社長に向けられる。
誰にも見られませんように、と心の中で願ってはいたけれどやっぱりムリそう。この商店街には私の知り合いが多過ぎる。
「初めまして。花さんの彼氏の枝山と申します」
腰を折って深々と頭を下げる葉山社長。
彼氏って……。
本当は違うのに、両親だけじゃなくてこれで田中のおばあちゃんにも嘘をついたことになってしまった。
しかし一方の田中のおばあちゃんは葉山社長のハキハキとした喋り方と丁寧なお辞儀にすっかり感心しているようで。
「まぁ素敵な人だこと。良い人見つけたわね花ちゃん」
「あはは……」
違います、とも言えずにひきつる笑顔で笑って誤魔化した。それから心の中でため息をつく。
ああ嘘をついてしまう人がどんどん増えていく……。