俺様御曹司と蜜恋契約



ようやく解放されると私たちは商店街の近くの駐車場に止められている葉山社長の愛車の中に避難した。

ふぅ、と息をついて葉山社長が運転席のシートに背中を預ける。

「なんかすみませんでした」

結局あれから1時間ほど商店街の人たちに囲まれていた。

「いや、楽しかったから別にいいけど」

土産もこんなにもらったしな、と葉山社長は車の後部座席をちらりと見た。そこには『花ちゃんの婚約者さんに』ということで商店街のみんながそれぞれのお店の商品を持ち寄って葉山社長に渡したものが置かれている。

「つーか、面白い商店街だな。お前が婚約者連れてきたくらいであれほど騒ぎになるのか?」

さきほどのことを思い出しているのか葉山社長が楽しそうに笑っている。その一方で私の気分はドーンと沈む。

「また嘘が増えてしまいました」

葉山社長が枝山という偽名を使い私の彼氏として家に来たことで両親に嘘をついているし、それが商店街中に広まってしまった。しかも彼氏から婚約者へと昇格して……。

「どうしよう」

小さく叫びながら頭を抱える私の肩に葉山社長がポンと手を乗せる。

「だったら嘘にしなければいいんじゃねーの?」

「え?」

嘘にしなければいいってそんなことできるのだろうか。

「俺と本当に結婚すれば嘘にならないだろ」

「……」

自信満々に告げられたその提案に私は大きなため息がこぼれた。

「言っておきますけどあなたの存在そのものが嘘なんですよ?あなたは今、枝山さんなんです」

「じゃあ俺、枝山に改名しようかな」

「そういう問題じゃありませんよね」

「だよな」

と、葉山社長がのんきに笑った。

「でもさ、マジな話。お前と結婚したら俺もあの優しそうな両親の義理の息子になれて家族の一員になれるんだよな。あの商店街の仲間にもなれるのか」

それも楽しそうだよなぁ…と葉山社長がぽつりと呟く。

「いい商店街だよな、森堂商店街」

その言葉に耳を疑ってしまった。

あなたはその商店街を再開発して自分の会社のショッピングセンターを作ろうとしていたくせに。いったい今さら何を言うんだろう。

「そういえば。お前って両親が歳いったときにできた子なんだって?」

「えっ」

突然話題を変えられて私は思わず葉山社長の顔を見つめる。

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