俺様御曹司と蜜恋契約

 「花が泣くだろ?」





しとしとと雨が降る7月の第一週の金曜日。

仕事終わりに久しぶりに持田さんとご飯を食べてから家に帰ると食堂の明りがまだ灯っていた。すでに閉店時間を迎えているはずなのにおかしい。そう思いながらゆっくりとお店の扉を開ける。

「ただいまぁ………あれ?」

そこには見慣れた商店街のメンバーが浮かない表情で集まっていた。

精肉店の小柴さん、洋菓子店の笹野さん、魚屋の高木さん、理容室の松田さん、クリーニング店の山波さん、それに大工の島田さんや他の商店街の人たち。珍しくそこに生花店を営む優子のお兄さんと奥さん、それに陽太も混ざっている。もちろん私の両親もこの場にいて。

これだけのメンバーがうちの食堂に一堂に会しているのも珍しい。しかもみんななんだか浮かない表情をしているし。

「えっと…今日は誰かの誕生日とか?」

表情を見ればそんなわけないとすぐに分かるけれどあえておどけたように言ってみた。

「花ちゃん座りなさい」

母親にカウンター席に座るように言われると私は黙って腰を降ろした。

「……何かあったの?」

うちの食堂に来ればいつも明るく話しをしているはずなのになぜか全員が口を閉じている。そのせいで空気がどんよりと重たい。その雰囲気に、きっと良くない出来事が起こったのかもしれない、と不安になった。

すると隣に座っている優子がそっと声を掛けてくる。

「花。これ見て」

そう言って優子が私に見せたのは一冊の雑誌だった。
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