俺様御曹司と蜜恋契約
向かったのは葉山社長の高級マンション。
行き慣れているそこへ辿り着いたときにはすでに日付が変わりそうな時間帯だった。最寄りの駅で電車を降りてからここまで全速力で走って来たせいか息が切れてしまった。膝に手をつき荒い呼吸を整えていると、聞き慣れた低い声に名前を呼ばれる。
「花?」
振り向くとそこにいたのはスーツ姿の葉山社長で。
「お前こんな時間にどうしたんだ?」
近くには黒塗りの車が停められていて、そばには秘書の佐上さんが立っている。もしかしたら仕事からちょうど帰って来たところなのかもしれない。
「あなたに、話が、あって」
息がまだ整っていないせいでうまく喋れなくて言葉が途切れ途切れになってしまう。ゆっくりと息を吐き出しながら呼吸を落ち着けていると、スーツのズボンのポケットに両手を突っ込んでいる葉山社長が静かに口を開いた。
「お前の言いたいことなら分かってるよ」
その言葉に私は顔を上げると葉山社長を見つめた。
「森堂商店街のことだろ?」
「はい」
「うちの副社長が商店街に行ったんだよな」
「再開発を進めるって……」
小さな声でそう告げると、葉山社長は一度大きくため息をついた。それから私に微笑みかえる。
「大丈夫だって。再開発なんてさせねーよ。お前の商店街は俺が絶対に守ってやるって言ったろ?」
絶対に、と力強く言ってくれた葉山社長の瞳から私はそっと視線をそらした。
大好きな森堂商店街を再開発で壊されたくはない。守ってくれる。そう言ってくれた葉山社長だけど、もしかしたらそのことで商店街の再開発を進めようとしている副社長の叔父さんと対立してしまうかもしれない。