俺様御曹司と蜜恋契約
「あの場所には泣かせたくない女の子がいる、とおっしゃっておりました」
「泣かせたくない女の子?」
「ええ。光臣社長は子供の頃、迷子になっている女の子を家まで送ったことがあるそうです」
「迷子……」
そのときふと何かに気が付き始めた。
「その女の子の家は商店街で小さな食堂を営んでいたようなのですが、家まで送ってもらったお礼にと女の子が光臣社長に『何か』をご馳走してあげたそうです。それがどんな料理なのか。花さん、思い出しましたか?」
「…………」
そこまえ聞いてようやく思い出した。
ううん。思い出したというよりも私はあの日のことを忘れたことなんてなかった。それがどんな料理だったのかなんてすぐに分かる。
「親子丼…ですよね」
そう答えれば、にこりと笑う佐上さんの顔がバックミラーに映った。
まさかあのときの男の子が葉山社長だったなんて…………。
父親の作った親子丼を『マズイ』と言われて悔しくて。それがきっかけで私は父親から料理を習うようになった。もしもあの男の子がまたうちの食堂に来ることがあればもう一度親子丼を食べさせて今度は絶対に『美味しい』と言ってもらいたくて…。
「光臣社長はその親子丼をマズイと言ったそうです。すると女の子が突然泣き出してしまった。その泣き顔がずっと忘れられない、と申しておりました」
佐上さんの運転する車が大通りを一本横に曲がってしばらく進むと暗闇の中に森堂商店街の看板が見えてきた。ゆっくりと車のスピードを落としながら「花さん」と佐上さんが私の名前を呼ぶ。
「だから、光臣社長はあなたのことをもう泣かせたくないんですよ」
そう告げられたときちょうど車が停車した。
葉山社長が何度か言いかけてはあやふやに途切れさせていた言葉の意味がようやく理解できた。
まさかあのときのあの男の子が子供の頃の葉山社長だったなんて。佐上さんの話を聞くまでは気が付くことができなかった。でも葉山社長は気が付いていたのかもしれない。私が彼に商店街の再開発をやめてほしいと頼みに行ったあのときから…。
だから葉山社長は森堂商店街を再開発から守ろうとしてくれているんだ。
「泣かせたくない女の子?」
「ええ。光臣社長は子供の頃、迷子になっている女の子を家まで送ったことがあるそうです」
「迷子……」
そのときふと何かに気が付き始めた。
「その女の子の家は商店街で小さな食堂を営んでいたようなのですが、家まで送ってもらったお礼にと女の子が光臣社長に『何か』をご馳走してあげたそうです。それがどんな料理なのか。花さん、思い出しましたか?」
「…………」
そこまえ聞いてようやく思い出した。
ううん。思い出したというよりも私はあの日のことを忘れたことなんてなかった。それがどんな料理だったのかなんてすぐに分かる。
「親子丼…ですよね」
そう答えれば、にこりと笑う佐上さんの顔がバックミラーに映った。
まさかあのときの男の子が葉山社長だったなんて…………。
父親の作った親子丼を『マズイ』と言われて悔しくて。それがきっかけで私は父親から料理を習うようになった。もしもあの男の子がまたうちの食堂に来ることがあればもう一度親子丼を食べさせて今度は絶対に『美味しい』と言ってもらいたくて…。
「光臣社長はその親子丼をマズイと言ったそうです。すると女の子が突然泣き出してしまった。その泣き顔がずっと忘れられない、と申しておりました」
佐上さんの運転する車が大通りを一本横に曲がってしばらく進むと暗闇の中に森堂商店街の看板が見えてきた。ゆっくりと車のスピードを落としながら「花さん」と佐上さんが私の名前を呼ぶ。
「だから、光臣社長はあなたのことをもう泣かせたくないんですよ」
そう告げられたときちょうど車が停車した。
葉山社長が何度か言いかけてはあやふやに途切れさせていた言葉の意味がようやく理解できた。
まさかあのときのあの男の子が子供の頃の葉山社長だったなんて。佐上さんの話を聞くまでは気が付くことができなかった。でも葉山社長は気が付いていたのかもしれない。私が彼に商店街の再開発をやめてほしいと頼みに行ったあのときから…。
だから葉山社長は森堂商店街を再開発から守ろうとしてくれているんだ。