俺様御曹司と蜜恋契約
『こんな話してたらまたお前の親子丼食いたくなるな』

「いつでも作りますよ」

美味しいと言ってもらえるなら。食べたいと言ってもらえるなら。私はまた葉山社長に親子丼を作ってあげたい。社長というイスから降りてまでも森堂商店街を守ってくれたお礼として。

……そんなことがお礼になるとは思えないけど。

また葉山社長に会いたい。そう思う私の耳に葉山社長の低い声が届いた。

『でももうお前とは会えねーな』

葉山社長がぽつりとつぶやく。

『お前との取引はもう終わりだ』

「えっ」

『もともとそういう取引だっただろ?俺が商店街から手を引く代わりにお前は俺の女になる。その商店街ももう守られたわけだし俺ももう葉山グループの社長じゃない。だからこの取引は終わりだ』

終わり……。
その言葉が胸に突き刺さる。

たしかにそうかもしれない。私と葉山社長の関係はあの取引があったから。それがなくなってしまえばまた元通りの他人に戻ってしまう。

普通の恋人たちのように心で繋がっていたわけじゃない。取引で繋がっていた関係。いつかは切れるものだった。

『それに俺、海外行くんだ』

「海外?」

『ああ。葉山グループの海外支店を任された。本当は社長を辞めたと同時に会社も辞めようと思ったんだけど会長の祖父がそれは許してくれなくて』

葉山社長が日本からいなくなってしまう。海外になって行ってしまったらもう本当に会えなくなってしまう。

『今までごめんな花。お前のことさんざん振り回したよな』

何か言わないと。
葉山社長との繋がりが切れてしまう。

『お前の作ってくれた料理どれも美味しかった』

何か言わないと。

『じゃあな』

私は何の言葉も掛けられないまま、一方的に葉山社長の電話は切れてしまった。

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