俺様御曹司と蜜恋契約
葉山社長の自分勝手な言葉や行動、強引な態度にはさんざん振り回されたはずなのに、それでも私は彼のことが嫌いにはなれなかった。その理由を葉山社長との取引が終わって、会えなくなってからようやく気が付いた。

私は葉山社長のことが忘れられない。このまま別れたくない。会ってきちんとお礼がしたいし自分の気持ちを伝えたい。

父親は不機嫌そうな顔を浮かべたまま無言で料理を作り続けている。揚げたての天ぷらをタレにつけてどんぶりに盛ったご飯の上にそれを乗せると天丼が出来上がった。

「母さん。一品できたぞ」

そう言って次の料理にとりかかる。その姿を見つめる私の肩にそっと手が置かれた。

「行ってきなさい、花ちゃん。恋に障害はつきものよ」

振り向けば微笑んでいる母親と目が合った。

「お母さんもお父さんと結婚するときね、両親にだいぶ猛反対されたのよ。公務員の男性とのお見合いを断って小さな食堂を営んでいるお父さんと結婚するなんてこの親不孝者がって」

それは初めて聞く両親のエピソードだった。

「それでもお父さんが必死になってお母さんの両親を説得してようやく結婚できたの」

うふふ、と少し恥ずかしそうに口元に手をそえて母親が笑う。

「だから花ちゃんも自分の気持ちには正直になりなさい。お父さんに何を言われても自分の気持ちに嘘をついてフタをしてしまってはダメよ」

「お母さん…」

その言葉がじんわりと体にしみこんできた。

自分の気持ちに嘘をつく。
自分の気持ちにフタをする。
そういう恋なら身を持って知っている。

優子のために私は陽太への恋を諦めた。その選択に後悔はしていないけれど、でも後に残ったのは陽太を忘れることができない辛い日々だった。

でもその恋もようやく終わることができた今。

人生で2度目の恋は初恋のときのように辛いものにはしたくない。

今度は自分の気持ちをしっかりと伝えたい―――。

「ほら、行ってきなさい」

母親が私の背中を押してくれる。

父親は賛成してくれないかもしれないけれど私は葉山社長のことが好きだ。その気持ちに嘘はつきたくない。諦めたくない。フタをしたくない。

取引じゃなくて、私は葉山社長の本当の恋人になりたい。

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