俺様御曹司と蜜恋契約


あの日からあの女の子の泣き顔が頭から離れなかった。

どうしてかなんて自分でも分からない。理由をみつけようとしても見つからなかった。誰が作ったどんな料理を食べても、必ずあのときの女の子の泣き顔が頭に浮かんだ。

それから何年か経って俺は葉山グループの社長になった。そして副社長の叔父が森堂商店街を再開発してうちの会社の新しいショッピングセンターを建てる計画をしていることを知った。

森堂商店街……。

そこにはたしかあの女の子の家の食堂があるはずだ。商店街が再開発されてしまえばあの食堂も一緒に壊されてしまうだろう。あの女の子はどう思うのだろう。ガキの頃のような泣き顔で泣くのだろうか。


泣かせたくない。


すぐにそう思った。

森堂商店街の再開発を何としても阻止したい。

そんなときに森堂商店街で両親が食堂を営んでいるという女が俺のもとをたずねてきた。それが大人になった花だった。葉山グループが計画している森堂商店街の再開発をやめてほしいと社長である俺に泣きながら訴えてきて……。

それは俺がずっと忘れられなかったガキの頃に見たのとまったく同じ泣き顔だった。まさか大人になってまたあいつの泣き顔を見せられるなんて思ってもいなかった。

あいつの泣き顔は見たくない。

だから森堂商店街は俺が絶対に守ってやるから泣くなよ。

あの場ですぐにそう声をかけてあげたら良かったのかもしれない。

それなのに俺はその言葉が出てこなかった。

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