俺様御曹司と蜜恋契約
『俺の女になれ』

そんな取引を持ち掛けたのは少しの間でいいから一緒にいたいと思ったから。ここですぐに花を帰してしまいたくなかった。少しの間でいいから繋がりがほしかった。どうしてそんなことを思ったのか自分でもよく分からないけれど。

初めのうちは他の女と同じように抱き寄せたりキスしたり…それ以上のことはできなかったけれど、でも俺が花にしたかったのはそんなことじゃないと気が付いた。

俺が花に求めていたのはきっともっと別のもので。これまで関係を持ってきたどんな女にも埋めることができなかったもの……。

初めて俺のマンションに連れて来たときに食べた花の手料理は、どんな料理も美味しいと思えなかった俺が久しぶりに心から美味しいと思えたものだった。

それから俺のマンションに呼び寄せて花にたくさんの手料理を食べさせてもらった。

突然作れと言って戸惑いながらも作ってくれたカルボナーラも、食べたいとリクエストして作ってもらった肉じゃがも、幼馴染への恋に泣きそうになっていたときに作ってくれたロールキャベツも。得意料理が食べたいと言えばあいつはやっぱり親子丼を作った。その他の料理もどれもすごくうまかった。


少しの間一緒にいられたらいいと思った。

本気になるつもりなんてなかった。

それなのに気持ちがどんどん花に傾いていった。

子供の頃からどんな料理も美味しいと思えなかった俺にまた料理の美味しさを教えてくれたのが花だった。口にした料理を美味しいと感じられたとき、同時に心が満たされていくのが分かった。

花の手料理だけじゃない。俺はきっと花そのものにすっかり惹かれていた。

大人になって、花にまた会えてよかった。

ガキの頃に見た花の泣き顔が忘れられなかったのは俺と花の繋がりがそこでできたから。きっとまた再会できるように。

俺の勝手な取引から始まった関係だけど、それが本当の恋に変わったのはきっと運命だって思ってもいいよな。




-end-



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