俺様御曹司と蜜恋契約
「みんな森堂商店街が大好きなんです。これからもあの場所でお店を続けていきたいってみんな思っています。だから―――」

スンと鼻をすする。

あれ……。

泣くつもりはなかったのに。

商店街のことを話していたら自然と目に涙がたまっていた。

こぼれないように必死にこらえる。

それなのに声は震えてしまって。

「どうか、森堂商店街の再開発から手を引いてください。私たちの商店街を壊さないでください」

言い終えると同時に目にたっぷりとたまった涙がポツンと手の平に落ちた。慌てて目をこすり涙をひっこめさせる。

これ以上は泣かないように唇をギュッと噛みしめた。

「…お願いします」

目の前の葉山社長は何も言わずにただ黙って私のことを見ている。その表情からは何も読み取ることができなくて。

一度こぼれてしまった涙はなかなかひいてくれない。私の目にはどんどん涙がたまっていく。それを服の袖でごしごしとこすった。

しんと静まる社長室に時計の秒針だけが響いている。

しばらくして葉山社長が口を開いた。

「美味いのか?」

「えっ?」

「お前の食堂の飯は美味いのか?」

「えっと……」

どうしていきなりそんな話?

突然のその質問に困惑してしまう。

でも、美味いのかそうじゃないのかと聞かれたら、


「美味しいですよ」


そう答えるに決っている。

「父と母が作る料理は世界一美味しい家庭の味です」

自信たっぷりにそう答えると、それを聞いた葉山社長の表情が一瞬だけふっと和らいだような気がした。

「家庭の味か……」

するとそのとき社長室に一本の電話がなる。
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