俺様御曹司と蜜恋契約
「ム、ムリですよそんなこと」

慌ててそう言い返せば、葉山社長は「あっそ」と冷たい視線を私に向ける。

「じゃあ取引はなしだ。交渉決裂ってことで、これまで通り葉山グループは森堂商店街の再開発をすすめるけど」

どうする?と葉山社長が再度私に問う。

「……っ」

私はそっと視線を下に落とすと、ぎゅっと握ったままの手を見つめた。

普通に考えてそんな取引はおかしい。商店街を再開発から救いたいからって、その代わりにこの人の恋人になるなんて。

絶対にそんな取引はしない。

でも…………。

心の片隅には、それでみんなの大切な商店街を守ることができるなら、とその取引に頷いてしまいそうになっている自分もいて。


「で、どうする?俺と取引する?」

「……」

「わざわざ俺んとこに来てまで商店街を守りたいんだろ?」

私はゆっくりと顔をあげると「はい」と小さく頷いた。

その反応を見た葉山社長がふんと鼻で笑う。

「だったら俺の恋人になれよ」

その言葉に私は唇を強く噛みしめる。

葉山社長が大きく息を吐いた。

「悪いけど時間ねーんだよ。だからどうするか早く決めろ。てか、迷う必要ないだろ?俺の女になればお前の大切な商店街を守れるんだ。ほら、あと10秒で返事しろ。じゅう、きゅう…」

「えっ…ちょっと」

カウントダウンがゆっくりと始まっていく。

「はーち、なーな、ろーく」

どうしよう。
どうしたらいんだろう。

「ごー、よーん」

葉山社長の女になる。
……私が?

「さーん、にー」

でもそれで森堂商店がを再開発から守れるんだよね。
私がこの人と取引をすれば……。

「いーち……」

「わ、わかりました」

気が付けばそう返事をしていた。

葉山社長のカウントが止まり、その顔がニヤッとした笑みを浮かべる。

「オーケー。じゃあ取引成立ってことで」

体の力がすぅっと抜けていくのが分かった。

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