俺様御曹司と蜜恋契約

 「再開発なくなったのよ」





エントランスに戻るとちょうど穂高部長も打ち合わせが終わったらしく合流することができた。


会社へ戻る前にお昼を食べて行こうということになり近くのファミリーレストランに入った。せっかくの部長の奢りなのに私は食事がまったく喉を通らなくて、注文したトマトパスタをやっとこ食べた。一方の穂高部長は打ち合わせがうまくいったのか上機嫌で昼間から分厚いステーキをライス大盛りで食べていた。パツパツのスーツの前ボタンが弾け飛ばなければいいけれど。


会社に戻ってもずっとぼんやりしていて仕事に手が入らなかった。いつもならしないようなミスを繰り返したり、穂高部長に淹れたコーヒーをうっかりデスクの上でこぼしてしまったり。


ようやく定時になって仕事が終わると私はすぐに会社を飛び出した。

帰宅の道でもぼんやりは直らなくてふとした瞬間に葉山社長のことを思い出してしまう。

「……」

電車の吊革につかまりながら空いている方の手でそっと唇を触った。


ファーストキスだった。

24歳にしてお恥ずかしい話なのだけれど私はまだ男性とお付き合いというものをしたことがない。だからキスも初めてだったわけで。

まさかあんな形で強引に奪われるとは思ってもみなかった。

それに『恋人になる』なんてとんでもない取引をしてしまったし。

あれは本気だったのかな……?

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