俺様御曹司と蜜恋契約
食堂はこれから夜の営業が始まるのでその用意をしているのだろう。厨房で父親が仕込みをしている背中が見える。

すると白いエプロン姿の母親がふきんを手に持ちながらお店の奥から現れた。

「花ちゃんおかえり」

その顔は満面の笑みを浮かべていて。

「どうしたの。何か良いことでもあった?」

分かりやすいくらいにニコニコしているので気になって問いかければ、母親の顔はさらにぱぁっと明るくなった。

「花ちゃん聞いて!商店街の再開発がなくなったのよ。これからもここでお店を続けていけるの」

「…へ?」

私の目が大きく見開かれる。


―――再開発が、なくなった……?


「今日の午後に葉山グループの人が来て商店街の再開発を白紙に戻したって言ったの」

「そ、そうなんだ」

よかったね、と呟けば母親が眉根を寄せて私の顔を覗き込む。

「花ちゃんったら商店街の再開発がなくなっていうのにあまり嬉しそうじゃないのね」

「えっ?あ、ううん。嬉しいよ」

アハハと笑って見せるけれど顔がなぜかピクピクと引きつる。しかしそんな娘の異変には母親はまったく気が付いていないようで。

「突然どうして再開発が白紙になったのかは分からないけどこれでひとまず安心ね。商店街のみんなも喜んでいたわ。田中団子屋の田中さんなんてお団子を半額で売り出したり、他の商店さんも気分が上がってしまってお店の商品を安売りしたりして、商店街の存続が嬉しいのね」

興奮した様子でそう告げると母親は持っていたふきんでテーブルを拭き始め開店の準備を始めた。

もしかして商店街の人たちが珍しく私にお店の商品をくれたのはこのことと関係しているのかもしれない。商店街の再開発がなくなったことが嬉しくて気分が良かったから?
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