俺様御曹司と蜜恋契約



その男は約束通りに現れた。

仕事が終わったのが5時半過ぎ。
会社から出ると、派手な黄色の車が道路脇に止められていた。低めの車体に、開いたドアが真上に向かって上がっている。パッと見て海外製の高級車だとすぐに分かった。

その車に寄りかかるようにして立っているのはネイビーのスーツに身を包んだ長身の男性で…。

「よお、花!」

私を見つけるなり声をかけてきた。

「迎えに来た……って、おい!お前なに逃げよとしてんだ」

素通りをしようとした私の手首が葉山社長によって掴まれる。そのまま車の助手席へと押し込まれてしまった。

運転席に座った葉山社長がゆっくりとアクセルを踏むと、そのまま滑るように車が発進した。


「あの…どういうことでしょうか?」

高層ビルの間を進みながら、やがて車が赤信号で停車するとようやく私は声を掛けた。

「どうって?」

ハンドルに手をかけたままこちらを振り返らずに葉山社長が答える。

「どうして私があなたの車に乗っているのかなぁと思いまして…」

「はぁ?お前、それ本気で言ってんの」

葉山社長が小さく息を吐く。

信号が青に変わると再び車が動き出した。

「商店街の再開発なくなっただろ」

「あ、はい。……ありがとうございました」

小さな声でお礼を言ってからぺこりと頭を下げる。

それに対しては感謝をしている。
商店街の再開発をやめてくださいとは言ったけれど、まさかその当日に本当に再開発がなくなるとは思わなかったから。

葉山社長は大丈夫なのかな…。

隣の運転席へちらっと視線を送りながら少しだけこの人のことが心配になった。

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