俺様御曹司と蜜恋契約
「取引成立ってことでいいんだよな」

そう言いながら葉山社長が私へと近付いてくる。

「俺の家まで着いて来たってことはそういうことだろ?」

あっという間に距離を詰められ、気が付けば私のすぐ目の前に葉山社長の胸板があった。

逃げたくても後ろにあるのはガラス張りの大きな窓。背中がぴったりと窓にくっついていてそれ以上は後ろに下がることができない。

ど、どうしよう……。

この状況にいよいよ自分のピンチを理解する。

どうして家まで着いて来てしまったんだろう。そんな自分をひどく後悔する。でも今更もう遅い。

「――花」

名前を呼ばれたかと思うと、私の顔のすぐ横で葉山社長がガラス窓にトンと軽く手をついた。

こわくて思わず俯いてキュッと目を瞑った。

「俺、自分の女はまず味見するんだよね」

葉山社長は私の顎を掴むとそのままクイッと持ち上げる。

「もう取引は始まってるんだ。黙って俺に従え」

鼻と鼻が触れ合いそうな距離でそう言われて、やっぱり私は単純バカだって思った。

あんな取引に頷いてしまうなんて。

よく知らない男性の家に着いてきてしまうなんて。

これからどういう展開になるかなんて経験のない私にだって理解できる。

葉山社長の胸を押し返して突き飛ばせば今ならまだ逃げられるかもしれない。

でも体が動かない。

こわい。


「――花」


葉山社長に名前を呼ばれて目を閉じた、そのときだった。


ぐぅ~~。


と、何とも情けない音が聞こえた。
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