俺様御曹司と蜜恋契約



森堂商店街の入口。
その道路脇に葉山社長の派手な黄色の車が停まる。

あの後、一緒に夕食を食べ終わると葉山社長は私のことを家まで送ってくれた。

心配したような身の危険は起きなくて…。私はただ葉山社長の家で夕食を作って食べただけだ。

「ありがとうございました」

「家の前まで送ろうか?」

葉山社長が車によりかかりながら腕を組む。

「いいえ、ここで結構です」

商店街の道は小さな車がようやく一台通ることができる狭い道だし、それにいつ誰に見られているか分からない。派手な高級車から私が降りて来た、なんてことがバレた日には一気に商店街中にその噂が広がるだろう。それに何より葉山社長と一緒にいるところを誰にも見られたくない。

「じゃ、気を付けてな」

葉山社長が私の頭にポンと手を乗せる。

「おやすみなさい」

私は彼に背を向けると商店街へと歩き出した。

腕時計を見ると時刻は午後9時。

食堂はまだ空いている時間だけどいつもより遅い時間に帰宅すると両親にどこへ行っていたのか聞かれるから家の玄関から入ろうかな。

それからお風呂に入って、歯を磨いて、明日も仕事だし早く寝よう。

そんなことをぼんやりと考えていると低い声に呼び止められる。


「―――なぁ、花」


葉山社長が腕組をしたまま車によりかかっていて、その視線がどこかへ向けられている。

「あそこに書店なかったか?」

彼のその視線の先にあるのは、商店街の入口にある一軒の建物。錆びついたシャッターが下ろされたその古い建物に、ああ、と私は思い出す。

「『三崎書店』のことですか?8年くらい前に店主の主人が亡くなったのでお店を閉めましたよ」

たしか息子さんがいたけれど地方の会社に就職をしていて家族もいるので後を継げなかったらしい。

三崎書店は昔からある古書店で、貴重な本もたくさん置かれているらしくそれを求めてわざわざ遠くから足を運ぶ人も多かった。けれどお店を続けていくことができずに閉店してしまって、大量の本は息子さんが近くの図書館へ寄贈したらしい。
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