俺様御曹司と蜜恋契約
それからしばらくしてお手洗いで話をしていた2人が戻ってくると、私は再び席を立った。
初めての合コンにすっかり疲れてしまってお手洗いの化粧台の前に立ってしばらくぼんやりと過ごす。それから少し時間が経ってから席に戻ると、そこはしんと静まり返っていた。
「あっ、湯本さんおかえり」
男性が1人残っているだけで他のメンバーがいつの間にかいなくなっている。
「あの…みなさんは?」
なぜか1人残っている男性に声を掛ければ「カラオケ行ったよ」とあっさり言われてしまう。
えっ、カラオケって…。
つまりみんな帰ったってこと?
どうやら私がお手洗いに長居していた間に合コンはお開きになっていたようだ。それなら私もさっさと帰ろうと思いバッグを手に取る。
そういえばみんな帰ったのにこの人…たしか名前は小野田さんだっけ?はどうして残っているのだろう。
「小野田さんは帰らないんですか?」
振り返ってそう問いかければ、彼がにこりと微笑む。
「湯本さんが戻ってきたとき誰もいなかったらビックリするでしょ?」
「あっ。すみません…」
どうやら合コンがお開きになったことを私に教えるために待っていてくれたらしい。少し垂れ目で人の良さそうな顔をした彼は6人の男性の中でも1番私に話し掛けてきてくれた人だった。
私たちはそのまま2人でお店を出て、帰る方向も同じということで途中まで一緒に帰ることになった。
平日の夜の街はまだ人がたくさん歩いていて、その中を小野田さんと会話をしながら歩く。
しばらくすると大通りを抜けて人の数もまばらになり、お店の数も減っていく。街灯の灯りだけが照らす薄暗い道まで歩いて来ると、ふと小野田さんが立ち止まった。
「どうしましたか?」
声を掛ければ彼はなんだか少し苦しそうな息をしている。
「…ごめん。急に酔いが回ってきちゃって」
「大丈夫ですか?」
「うん。少し休んだら治るから」
「あっ、じゃああそこの公園のベンチに座りましょう」
ちょうど近くに小さな公園があったのでそこのベンチへ移動した。ふらふらと歩く小野田さんが心配でそっと肩を貸してあげれば「ありがとう」と声が聞こえた。