俺様御曹司と蜜恋契約

 「商店街、なくなるの?」


「--えっと、社長?おっしゃっている意味が分からないのですが…」

広い社長室に私の声が静かに響いた。

私が座っているソファのテーブルを挟んだ向かい側。
光沢のある革ソファにどっしりと腰を降ろしているのは、日本を代表する大手流通会社『葉山グループ』の御曹司であり次期会長候補、葉山光臣(はやまみつおみ)。昨年29歳という若さで代表取締役社長へと就任した男だ。

そんな彼の薄い唇の端がきれいに持ち上がる。

「だからさ、花ちゃん」

その低い声で彼が告げたのはさきほど名乗ったばかりの私の名前。

湯本花(ゆもとはな)24歳。
実家は商店街で小さな食堂を営んでいる。短大を卒業後、葉山グループの子会社である葉山物流の事務員として働き今年で5年目。

これまで一度も仕事を休んだことがなければ遅刻だってしたことがない。事務だから裏方の仕事しかできなくて手柄を上げることなんてできないけれど、普段の業務は卒なくこなし頼まれた仕事は断らない。そんないたって普通の真面目なОL。

そんな私がなぜ親会社の本社ビルの社長室にいるのか。

そして……


「聞こえなかった?俺の恋人になれって言ってんの」


なぜ社長にこんなとんでもないことを言われてしまっている事態に陥っているのか。


これには深い理由があって――・・・
< 6 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop