俺様御曹司と蜜恋契約
「葉山社長。ひとつだけ聞いてもいいですか?」

そっと声を掛ければ「何だ」と静かな声が返ってきた。

「どうして私とあんな取引をしたんですか?」

それはずっと気になっていたことでもあった。

商店街の再開発から手を引く代わりに俺の女になれ、なんてどうして葉山社長がそんな取引をしたのかいまだによく分からない。私は商店街を再開発の危機から救うことができるけどその取引で葉山社長にはどんなメリットがあるのだろう。

「取引をするならもっと他に別なものはなかったのかなぁと思って」

「別なのって?」

「うーん…」

そう聞かれても困ってしまうけれど。

「葉山社長のまわりには素敵な女性がたくさんいると思うのに、どうして私なんかを相手にするのかが分からなくて」

そう呟いて、胸に抱いたカバンをぎゅっと握りしめた。

昨日は私の後をつけていた葉山社長によってピンチから助けられた。そのまま放っておいて見ないふりすることだってできたのに、小野田さんの前で私のことを自分の彼女だと言って。私は葉山社長の本当の彼女じゃなくて、そういう取引をしているだけなのに。

葉山社長はしばらく何も言わずに運転を続けていたけれどやがて片手で前髪をかきあげる。

「お前に興味を持ったから、かな」

「興味?」

「俺のまわりにはいないタイプの女だったし、こいつからかったら面白そうだなぁと思って」

それだけだ、と何の感情もこもらない低い声で告げる。

「ま、気楽にしてろよ。しばらく俺の時間つぶしに付き合うとでも思って」

「時間つぶしって…」

からかったら面白そうとか時間つぶしって…。やっぱり私が抱く葉山社長の印象は『俺様男』だ。でも商店街を再開発から守るためにはこの人との取引を続けないといけない。私が少し我慢をすれば森堂商店街は再開発されずにすむんだから…。

いつの間にか葉山社長の運転する車は葉山グループが経営している食品スーパーの前に止められていた。

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