俺様御曹司と蜜恋契約
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夕食をすませ食洗器にお皿を入れてスタートボタンを押す。
ソファへと視線を向ければ葉山社長は何やら難しい顔でノートパソコンの画面を見つめていた。細くて長い指がキーボードの上を華麗に動く。たまに書類のようなものに視線を移すと顎に軽く手を添えて何かを考えているような表情を浮かべる。
家でも仕事なんてやっぱり大企業の社長は忙しいのかもしれない。
その姿をついついじっと見てしまう。と、ふと葉山社長が顔を上げ私へ視線を向けた。
「――花」
ふいに目が合ってしまい慌ててそらす。
「何ですか」
「また俺に料理作ってくれる?」
そう訊ねられて少し考えたけれど私は頷いた。
「…いいですよ」
葉山社長はあのあと親子丼をさらにもう一杯お代わりしてぺろりと3杯をたいらげてしまった。どうやら細い見た目とは反対にかなりの大食いらしい。
でも私の作った親子丼を美味しいと言って食べてくれたことが嬉しかった。だから他の料理も食べてもらいたくなる。
思えば家族以外の人に手料理をふるまうのは初めてかもしれない。料理が好きで普段からよくしているけどその全てが自分のためか家族のため。身内以外の人に手料理を食べてもらって褒めてもらえることがこんなに嬉しいとは思わなかった。
「今度は何を食べたいですか?」
単純な私はすっかり気分が良くなってしまう。一方の葉山社長は私のその質問には答えずに目を見開いて私のことをじっと見ていた。
「--はぁ……」
しばらくすると大きなため息をこぼした葉山社長は、髪をわしゃわしゃとかく。それから膝の上に乗せていたノートパソコンを退けると、おもむろにソファから立ち上がり私に向かって歩いてきた。
目の前まで迫ってきた葉山社長が突然私の手首を掴むとそのまま引き寄せられた。葉山社長の顔が目の前にあって。
「じゃあ花を食べたい」
「…え?」
次の瞬間、葉山社長の両手が私の両脇に入れられそのままひょいと持ち上げられた。気が付けば私はアイランドキッチンの上に座っていて、足が床に着かずにスリッパが片方だけ脱げ落ちた。