俺様御曹司と蜜恋契約
その隙を見て私はアイランドキッチンからゆっくりと降りる。

逃げるなら今だと思いリビングから廊下へ出ようとしたところで、しかし背中に声を掛けられる。

「おい花。まだ帰るなよ」

スマホを耳からはずした葉山社長が私のことを睨んでいる。その顔がとてもこわくて思わず頷いてしまった。

すると葉山社長は私から視線をそらし再びスマホを耳に当てる。どうやら仕事の電話をしているようでノートパソコンを見ながらテキパキと指示を出している。

この電話が終わったら今度こそピンチだ。

やっぱり一刻も早くこの部屋から逃げ出さないと。取引で葉山社長と付き合うとは言ったけどワンナイトラブはお断りだ。ワンナイトじゃなくてもお断りだけど。

キスだけでも本当は嫌なのにそれ以上なんてもっと嫌だ。そういうことは葉山社長と『そういう関係』を望む女性たちとしたらいい。

近くに置いてあるカバンを掴むと電話に集中している葉山社長の隙を見てリビングから飛び出した。廊下を進みそのまま玄関へと向かい右手がドアノブに触れたときだった。

「――っ」

何か強い力に左手首を引っ張られた。そのままバランスを崩し後ろに倒れかかれば、背中がトンと何かに当たる。

振り向けばスマホを耳に当て電話中の葉山社長が私のことをじっと睨むように見下ろしていた。

逃亡失敗……。

葉山社長が後ろから私をぐいっと抱き寄せてくる。

「離し…」

離してください。そう言おうとした私の口は葉山社長の大きな手によって塞がれてしまった。頭上では電話中の葉山社長が何事もないようなすました顔で電話の向こうの相手と仕事の話をしている。

スマホを持つ手とは逆の手でしっかりと私を口をふさがれているため私は声を出すことができない。後ろから抑え込まれているので逃げ出すこともできなくて、とうとう抵抗することを諦めた。

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