俺様御曹司と蜜恋契約




「……ん」

チュンチュンという騒がしい音で目が覚めた。

ゆっくりと瞼を開ければカーテンの隙間から眩しい光が差し込んでいる。

「朝、か……」

そこでようやく毎朝セットしている目覚まし時計が鳴った。音を止めて時間を確認する。いつもは目覚まし時計の音で目が覚めるのに今朝は珍しくそれよりも早く起きてしまったみたい。

ゆっくりと起き上り部屋を出ると1階にある台所へと向かう。そこで会社へ持っていくお弁当の準備を始めた。

冷蔵庫を開けながら昨日のことを思い出す。

結局あの後、私たちの間には何も起こらなかった。キッチンで襲われかけたときはもうダメだと思ったし、葉山社長の電話が終わればこのままワンナイトラブされてしまうと怯えていたけれど。

電話を終えた葉山社長は私のことを車で商店街の入口まで送ってくれて、それ以上のことは何も起こることはなかった。

なんだかすごくあの人に振り回されているような気がする。ここ3日間毎日のように顔を合わせているし。それもこれも全てあの取引のせいだ。

「はぁ……」

最近、ため息ばかりついているかも。

この日の仕事中も気が付けば何度もため息をこぼしてしまって、隣の席の持田さんに『悩みでもあるの?』と声を掛けられた。悩みあります、と葉山社長とのことを話して相談できたら楽なのかもしれないけど話すことはできないし。

給湯室で来客用にお茶を淹れているときもついぼんやりしてしまって、沸かしていたお湯が沸騰してやかんから溢れてしまった。たまたまその前を通りかかった穂高部長に『ぼんやりしてどうしたの?』と心配されてしまった。お人好しな穂高部長に『具合が悪いなら帰って休みな』と言われたけれど体調不良というわけでもないので仕事はしっかりとこなした。
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