俺様御曹司と蜜恋契約
お店の奥の扉は自宅へとつながっている。そこに向かって歩き出すと「花ちゃん」と声をかけられた。

誰の声かはすぐに分かった。顔だけじゃなくて声もそっくりだから。

振り向くと陽太のお父さんが私のことを呼んでいた。4人掛けの席に近付けば、他の3人はお酒を飲みながら話に没頭している。

呼ばれたので陽太のお父さんのもとへ行けば、笑顔で話し始めた。

「花ちゃん。6月から陽太がうちのお店を継ぐことになったんだ」

その細い目は笑うとよりいっそう細くなって消えてしまう。陽太と同じ一重の目。お世辞にもかっこいいとは言えないけれど素朴な優しい笑顔だ。

「陽太がお店を継ぐこと知ってますよ。母から教えてもらいました」

陽太が実家の佐々木庵を継ぐと知ったのは去年の12月頃のことだった。直接本人から聞かされたのではなくて母親伝いで知った。

「それでね花ちゃんにお願いがあるんだ」

「お願いですか?」

なんだろう?と首を傾げる。

「陽太がお店を正式に継いだ日、花ちゃんに最初のお客さんになってほしいんだ」

「え…」

「陽太が小さいときに花ちゃんの約束したみたいなんだけど、覚えてる?」

「……っ」

私は俯きながら頷いた。


『花ちゃん。僕がお店を継いだら僕の作った和菓子を1番に花ちゃんに食べさせてあげるからね」


約束だよ、と陽太と指切りをしてからもう20年が経つ。

陽太がその約束を覚えていてくれたなんて。
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