俺様御曹司と蜜恋契約
持田さんの言葉にすっかり驚いてしまった私は口をポカーンと開けたまま固まってしまう。

「とりあえず来て」

そんな私の手首をむんずと掴むと持田さんはそのまま歩きだす。

「えっ…持田さん?」

「詳しいことはまた月曜日に聞くから。今は葉山社長が呼んでるの」

「ちょ…待ってください」

抵抗も空しくあっという間に私は持田さんによって女性社員たちの輪の中へ連れて行かれてしまった。その中心にいた葉山社長が私に気が付くと呑気に「よっ!」と声を掛けてくる。

「お疲れ、花」

葉山社長が私の肩に腕を回すとぐいっと引き寄せる。

「残業してたんだって?そんな頑張り屋の花には美味いもん食わせてやるぞ」

そう言って葉山社長は私のつむじにキスを落とした。その行動にぎょっとして顔を上げれば「ん?」といった呑気な表情で私のことを見下ろしている。

やめて。
みんなの前でそんなことしないで。
誤解されるから。

そんな私の心の声になんて1ミリも気付かないだろう葉山社長は私から視線をそらすと周りにいる女性社員たちに声をかける。

「じゃ、俺は可愛い彼女が来たから行くけど」

彼女って…。
そういう取引をしただけであって私は葉山社長の本物の彼女じゃないってば。

その言葉に女性社員たちの視線が一気に私に向けられる。そうじゃありません、と訂正しようとしたのだけれど。

「ほら、早く車に乗れ」

葉山社長によって助手席に押し込められてしまった。

葉山社長も運転席に乗り込むと、彼の愛用の派手な黄色の車はゆっくりと発進した。ちらっとサイドミラーに視線を向ければ、私たちの車をじっと見ている女性社員たちの姿。唯一手を降っているのはたぶん持田さんだ。

ああ、次の出勤がこわい。
どういう顔で出社したらいいんだろう。
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